安西冬衛と魔女の思い出
安西冬衛全集をヤフオクにして手に入れた。最初に出品されてからチェックはしていたのだけれど、少しお高くてなかなか踏み切れなかったのだけれど、先日結構な割合で値が下げられていたので決心しました。
安西冬衛を教えてくれたのはもう随分と前に付き合っていた魔女だった。
なんで魔女なのかというと、黒系統で丈の長い服をいつも着ていたし、とにかく博識でした。そして、わたしの好みのモノがわかっちゃうのです。音楽も食べ物もお酒も本も。
そんなわけで心のなかで魔女と。
ある日、彼女の家に行くと、彼女がとても大切にしていて勝手に中を覗くことも禁じられていた年代物のキャビネットを指差して「ヒツジさん開けてみて」といった。
中にずらっと並んでいたのが安西冬衛全集だった。
第一巻を手に取り頁をめくると『軍艦茉莉』小一時間、詩に没頭していたと思う。
ふと気配を感じて目を上げるとにやにやしている魔女が居た。
「ヒツジさん好きでしょ?」
以前、バントをやっているときに『おれたちゃ幽霊海賊団』という曲をつくって一度だけ演奏したことがあったのだけれど、ヒツジの小芝居から曲が始まります。
そのセリフがこれ。
そう、あれは何年前になるのだろう 俺は肋子という少女に恋をしたんだ
彼女は 十四 で俺は四十
所詮かなうはずの無い恋だった... 海賊になった俺は世界の海を荒らし回りながら 肋子の面影を求めて彷徨った...
けれども肋子のような女には二度と出会うことはなかった
そして、今ではこんなになっちまった... 見てくれこのやせ細った骸骨の姿を!
安西冬衛の肋子を引用させていただきます。
肋子
彼女は暴政を試みる。小さい弟と妹とに。暴君に酔ふた小さいひとたちは、一晩で塗り上げた宿題の地圖のやうに、「哀れ」と「可愛ゆさ」とで、可哀さうにまんだらになつてゐる。
とはいへ、私は横暴な彼女を、更に惡む氣にはなれないのだ。
地圖には甲ノ上をやる。
學力
彼女は子、丑、までしか知らないといふ。
うそ
ハガキは裸のやうな氣がして、恥ずかしくつてどうも出せないといふ。
犬は厭
『活版の犬なら好き』
プロレタリヤ
『學校にゐるときディツケンスつてあだなもらつた。肋子。貧乏人のことかくのが上手』
愛想
『伯母さんは利口すぎて、私の無愛想を自分の娘と比較する。だから挨拶もしてやらない』
安西冬衛もあがた森魚もムーンライダーズもPizzicato Fiveも澁澤龍彦もあれもこれも教えてくれてありがとうね。
トルコに行きたいって言ってたけれど叶いましたか?
最後に、蛇足も蛇足なんですが『おれたちゃ幽霊海賊団』の歌詞の部分も。
クソ脳天気な手下たちに感傷にも浸れない海賊船長の歌です。
おれたちゃパイレーツ
幽霊パイレーツ
おどけたパイレーツ
海賊だよ!
ものの道理にゃ 付き合いきれないのさ
だってそうでしょ 海賊なんだからさ
そしておまけに 幽霊だとしたらなおさら
わーお~!
おれたちゃパイレーツ
幽霊パイレーツ
おどけたパイレーツ
海賊だよ!
へなちょこ船長 付き合いきれないのさ
甘い感傷 いつまでひたってるのさ
いいかげん忘れちまいなよそんな女はさ
わーお!
俺の気持ちを わかれとは言わないが
おもいやりとか やさしさとか 少しは持て はしないのか...
おれたちゃパイレーツ
幽霊パイレーツ
おどけたパイレーツ
海賊だよ!!
幽霊だもの 心は必要ないさ
海賊だもの 優しさ必要ないさ
少しだけなら 愚痴をきくから酒をくれよ!
わーお!
手下どもには なにももう求めまい
俺の心の中だけで 愛を護り続けるのさ
おれたちゃパイレーツ
幽霊パイレーツ
おどけたパイレーツ
幽霊パイレーツ
ゆかいなパイレーツ
幽霊パイレーツ
たのしいパイレーツ
海賊だよ!!