僕たちも江戸に行ってみようぜ!いや、行けるんだよほんと
古本です。杉浦日向子好きなので手に入れておかないとと即買いしましたっ。
ムーミンとトーベ・ヤンソンも面白かったんだけれど、今回は日向子さんの話。
杉浦日向子
杉浦日向子さんは漫画家・文筆家・時代考証家などいろいろな顔を持ってました。NHKのTV番組「コメディーお江戸でござる」(1995年3月30日から2004年3月18日)ではわたしたちに分かりやすくイロイロなことを教えてくれてたっけ。
杉浦さんとの出逢いは(多分、多分ですが)エロ漫画雑誌に掲載されていた夢幻法師という作品でした。しばらく後、そのエロ雑誌を立ち読みしていたセブンイレブンで『ゑひもせす』が数冊並んでいるのを発見!虜になりました。
1993年に漫画家は引退、江戸風俗研究家として文筆業やテレビ出演等で活躍していましたが、2005年に46歳で亡くなりました。あの時の喪失感ったら無かったな…。
ユリイカ 総特集 杉浦日向子
今回買ったユリイカ 総特集 杉浦日向子は2008年に刊行されたもの。目玉はなんといっても単行本未収録の『三味線枕』と『吉良供養』の下描きバージョン。
『三味線枕』2008年当時は単行本未収録だったんだけれど、現在は『花のお江戸の若旦那:彩色江戸漫画』として2016年に河出書房新社から出てます(実は今回日向子さんの事をいろいろ調べていてわかったんですけどね)。彩色江戸漫画とあるようにオールカラーです。色使いは彩度を抑えた色合いでいい感じです。それにしても何になりたい?って江戸の大店の若旦那が最高な気がするわぁ。
『吉良供養』これは最初に買った『ゑひもせす』に収録されてます。吉良は皆さんご存知の忠臣蔵の吉良上野介ですね。杉浦日向子は虐殺という観点から描いていて、当時「なるほど確かに見る方向をかえたらそうだよなぁ」と思ったものです。
ユリイカにはこの『吉良供養』の下描きが収録されています。普通、漫画家さんって下描きにペン入れをしていくものだと思うのですが、杉浦日向子さんは違ったみたいですね。ユリイカでは下からトレース台で下から照らし、それを別紙に描いたんだろうと記されています。
おすすめ日向子本
杉浦日向子さんのおすすめ本を紹介しようと思うのだけれど、実際どれもこれもがおすすめ困ってしまう。困った結果、怪談好きなので『百物語』、「杉浦日向子さんって本当に江戸を観てきたことがあるみたいだ」という部分を知ってほしいので『江戸アルキ帖』を紹介することにします。
まず最初のおすすめは『百物語』。百物語というくらいだから怪異が語られるわけだけど、その怪異に説明は無い。ただ「こういうことがありました」で終わってしまう。この置いていかれる感じに魅了された。置いていかれる事で自分の周りの空気が描かれている世界と重なる気がする。新耳袋の木原浩勝と中山市朗の『新耳袋』も最初読んだ時、置いていかれる感じがすごく怖かった。
新耳袋といえば、当時、怖い話に凝っていた従姉妹の子供が家に遊びにきた時に『新耳袋』を読ませたのだけれど、「ちっとも怖くない」って言うわけ。「どうして?」と聞いてみたところ、これこれこういうわけでこの怪異は起こったんですというのが無いからく怖くないんですと。恨みとか憎しみと因縁みたいな、そういうのが無いとダメなんですね。
なんとなくわかった気がしたので、「貸してあげるから、ひとつひとつの話が起きた場所に自分も居るような気持ちで読んでみて」といって貸したところ、数日経って返しに来たので「もう読んじゃったの?」と聞いてみた。
そこに居るつもりで読んでみたら怖くて、部屋に本があるのが怖いから返すということであった。笑いました。
木村浩勝さんかなぁ『百物語』を読んで、やっぱり自分たちのやり方は間違っていない(百物語が出版された1993年にはすでに『新・耳・袋 - あなたの隣の怖い話』を出していた)と、メディアファクトリー版『新耳袋』を出すための励みになったみたいな事をどこかで言っていたような気がするんだが、どこを探しても見つからないので嘘か夢かもしれません(汗)。
話が『百物語』からそれました。時にはぞっとするような時には心がほんわかとするような時には切ないような九十九の話を楽しんでください。
そうそう、連載当時は「置き去りマンガ」と言われていたらしいです(ユリイカ総特集 怪談での中沢新一との対談より)。
『江戸アルキ帖』
「この本は江戸の町が私達の町のすぐ隣に有る気で歩き或る記にしたものです。ヒナコ」(江戸アルキ帖より)
この本を読むまで、懐かしい時代とうのは多分、明治の後期からだろうとは思うのだけれど、明治までだった。明治には生きていないのに何故か懐かしい気がする。その頃の風俗に憧れる。ところが『江戸アルキ帖』を読んでからはずっとさかのぼって江戸の時代までもが懐かしくなってしまった。
この本はタイムマシンの使用が免許制で普通の人にも許可されている時代、江戸好きの女性(日向子さん?)が江戸に行った時の事を一枚の絵と共に語っていくという作りになってます。江戸には何も持ち込めないので写真も撮れないという設定です。帰ってきてからスケッチを描くんですね。
初心者は昼間しか江戸に滞在できません。慣れない江戸で少しずつ行動範囲を広げていきます。
その中で出会うそこに生きている人、羅宇屋だったり佇む少女だったりが「あぁ居たんだねぇ」という感じで描かれてる。日向子さん、本当に行ってきたんでしょ?というふうに。そして江戸の人々や景色や風や雨、そういったものが懐かしく愛おしくなってしまう。
実は今手元に無いのだ。誰かに貸しちゃったんですね。貸した本は帰ってこないのが普通です(笑)。もう何冊買ったかわからないんだよね。
百物語も壱と参だけで弐が無いし…。
是非是非、みなさんも一緒に江戸に行ったような気持ちになって欲しいと思う。
杉浦日向子談義しましょっ!
亡くなった後、一時日向子さんの本が手に入らない時期があって、酷く寂しい気持ちになってしまったのだけれど、今は文庫なんかで大概の本が手にナイルみたいです。新刊も出たしね。
どうぞどうぞ本屋さんで探してみてください。酒を飲みながら日向子さん談義でもしたいです。誘ってください。
『ニッポニア・ニッポン』の後ろに初出書いてありました。「夢幻法師」は1983年6月号のラブトピアが初出でした。実は自分ではエロトピアだと思ってた。僕もまだ10代でした。2018/03/22追記
リンク
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ブラコメの中の人
サイトウヒツジ
もうイロイロ気にしないのだ
1964年生まれ
絵を描いたり、音楽を作ったり、本を読んだり、植物を育てたり、猫と遊んだり。
酒好き。日本酒は奈良萬。ウイスキーはアードベッグ。ラムはロンサカパ。ジンはタンカレーのラングプール。稲垣足穂・あがた森魚・Predawn・The Books・バロンと世界一周楽団・驚異の部屋・スチームパンク